福井家庭裁判所大野支部 昭和36年(家)165号 審判 1965年9月22日
申立人 田中もと(仮名) 外一名
相手人 原田文子(仮名) 外五名
被相続人 亡田中平吉(仮名)
主文
別紙目録記載の財産全部を相手方田中俊男の単独所有とする。
相手方田中俊男は申立人田中もとに対し金五〇万三、一〇四円、申立人田中栄、相手方原田文子、同田中守子に対し各金二五万一、五五二円、相手方保田治男、同大山京子、同中川美子に対し各金六万二、八八八円のそれぞれ金員支払債務を負担するものとする。
相手方田中俊男はこの審判確定日の日から五年内に、各一年を経る毎に、前項各債権者に対する債務五分の一相当金員を支払わなければならない。
理由
(申立の趣旨及び実情)
申立人等は、別紙目録記載の被相続人の遺産を共同相続人に分割する旨の審判を求め、その実情とするところは
一、被相続人田中平吉は昭和三六年一月二日に死亡したところ、同人の相続人は申立人両名及び相手方六名であり、他に相続人はない。
二、右各相続人の相続分は妻である申立人田中もとが三分の一、子である申立人田中栄、相手方原田文子及び孫である相手方田中守子が各六分の一、孫である相手方田中俊男、同保田治男、同大山京子、同中川美子が各二四分の一の割合である。
三、被相続人の遺産は別紙目録記載のとおりであるが、共同相続人間に分割の協議ができないから、審判による分割を求める。
(当裁判所の判断)
一、記録編綴の各戸籍謄本によると、被相続人田中平吉が、昭和三六年一月二日前記最後の住所で死亡し相続が開始したこと、各申立人及び各相手方が別紙系図記載の身分関係のもとに相続人となり(相手方田中守子、同田中俊男、同保田治男、同大山京子、同中川美子はいずれも代襲相続)他に相続人はなく、その各相続分は申立の実情記載のとおりであることが認められる。
二、被相続人の遺産は別紙目録記載の土地、家屋であり(他に若干の動産のあることが窺われるが、申立人等においてその分割を求める意思がないと認められるから、右は分割対象から除外する)。鑑定の結果によると、その評価額合計は金一五〇万九、三〇〇円である。そして右評価額は財産の種類、所在場所、利用態様等よりして相続開始当時及び現在(分割時)を通じ殆ど変動のないことを鑑定人野村胤治尋問の結果により認め得る。
なお、別紙目録番号1の田一反三畝二歩につき、これが遺産に属するかどうかにつき争があるから、この点につき一応の判断をする。記録中の右田についての登記簿を調査すると、右物件は売主林松吉、買主被相続人間の昭和二〇年五月一一日附売買を原因として、同年六月二四日被相続人のための所有権取得登記がなされているのであるが、相手方田中俊男の供述するように、右買受資金に同人の亡父の恩給、戦死による政府下賜金が充てられたとしても、特段の証拠がない限り当時家長(戸主)であつた被相続人を買受人として同人に所有権を取得させる趣旨の取引がなされ、それに相応する前記登記を経たものと認めるのが相当である。従つて前記田も本件遺産の範囲に属するものというべきである。
三、前記遺産評価総額を、各相続分に応じ配分すると、各人の取得額は申立人田中もとが金五〇万三、一〇四円、申立人田中栄、相手方原田文子、同田中守子が各金二五万一、五五二円、相手方田中俊男、同保田治男、同大山京子、同中川美子が各六万二、八八八円となる。
四、そこで分割の方法について考えるに、審理の結果によると、
イ、本件遺産は別紙目録記載の家屋、同上敷地(目録土地の部の番号16)の他はすべて田、畑、山林、原野、雑種地であり、生前農業を営んでいた被相続人の農業用資産を構成していたものであるが、被相続人死亡後被相続人家の後継者(被相続人の長男亡邦男の長男)たる相手方田中俊男が、右財産をすべて占有、管理(家屋の居住、農地の耕作)していること、
ロ、各相続人の職業についてみると、相手方田中俊男は前記のとおり被相続人の跡を継ぎ別紙目録記載の農地の他更に自作、小作を含め併せて田一町四反余等を耕作しているが、その余の相続人田中もと(申立人田中栄方で老後を養つている)、田中栄(理髪業)、原田文子(大阪で印刷あつせん業者に嫁す)、田中守子(体育大学を卒業し体操教師の希望する)、大山京子(小学校教員)、中川美子(横浜で日本航空社員に嫁す)はいずれも農業と関係がなく、相手方保田治男は農業に従事しているけれども既に他家にいわゆる婿入りをして一家を成していること、
ハ、本件遺産中家屋、その敷地は前記のように相手方田中俊男の居住に供せられ、その余の土地も、農地であることや山間にあるため換価が容易でないこと、
ニ、相手方田中俊男の前記農業経営規模からすると、他の相続人に対し現物分割に代る債務負担が、少くとも相当の猶予を置くことにより可能であること、
が認められる。
以上認定の事実並びに各相続人の分割方法に対する意見等諸事情を綜合し、本件においては遺産の全部を相手方田中俊男に単独取得させるとともに同人に他の相続人に対する債務を負担させ、かつ右債務の履行につき分割支払の利益を与えるのが最も適当と考える。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 山下巖)
目録<省略>